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東京地方裁判所 平成4年(ワ)15478号 判決 1998年7月13日

主文

一  被告らは、原告に対し、連帯して三一四万五六八〇円及びこれに対する被告株式会社真成都市開発及び被告寺島鐐太については平成四年九月二五日から、被告加納明弘については平成四年一〇月二三日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。 四 この判決は、原告の勝訴部分に限り、仮に執行することができる。

理由

一  請求原因1(当事者の地位等)の事実は、当事者間に争いがない。

二  同2(本件準媒介契約)の成否について判断する。

1  <証拠省略>を総合すれば、以下のとおり認められる。

昭和六三年四、五月ころ、原告は、訴外西村から海外不動産の購入を勧誘され、海外不動産投資を検討することになった。同人の説明によれば、その具体的購入方法は、被告会社が、米国の不動産仲介業者を原告に紹介し、原告がその業者から不動産を購入するというものであった。これは、米国では、不動産仲介業を行うには免許を取得しなければならないところ、被告会社は、免許を有していなかったため、米国の不動産仲介業者をとおさなければならなかったためである。

そこで、被告会社は、業務提携をしていた米国のいくつかの不動産仲介業者から具体的に提示された不動産物件について原告に紹介した。本件モーテルもその中の一つである。被告会社は、原告本人と共に紹介したいくつかの不動産を実際に現地まで赴いて視察し、原告本人もその場で説明を受けながら最終的には被告加納の勧めなどを考慮に入れた上で自己の判断で本件モーテルを購入したものである。その際、被告会社は、原告から紹介料は受け取らないものの、不動産仲介業者を通じて売主側から紹介手数料を受取る仕組みになっていた。これは、米国の不動産仲介業の仕組みが、日本と異なり、売主側が仲介業者に仲介手数料を支払うことによるものである。

右認定を動かすに足りる証拠はない。

2  被告会社は、原告とは不動産仲介契約を締結しておらず、あくまで米国の不動産仲介業者を原告に紹介することのみを内容とする紹介契約とでもいうべき契約を締結したにとどまる旨主張する。

確かに、前掲証拠によれば、本件モーテルの仲介業者は、訴外QRI社であり、被告会社と原告との間には正式な不動産仲介契約は締結されていない上、米国では、不動産仲介業者は、前認定のとおり、免許を取得していなければ不動産仲介業務を行えないことが認定し得ることからも原告と被告会社間に直接不動産仲介業務が契約されていたとは解し難い。

しかしながら、本件モーテル購入に際しては前記認定の米国の不動産取引事情をも考慮して当事者間の合理的意思解釈をする必要がある。すなわち、米国では、前認定のとおり、仲介手数料を売主が支払うことからもわかるように、仲介業者は、売主の立場に立って買主と交渉することが認められる。一方、我が国では、前掲証拠によれば、このような取引慣習は認められない。前記原告本人尋問の結果によれば、原告は、米国にコンドミニアムを所有しているなど、米国での不動産取引経験がないわけではない点において、不動産取引について全くの素人ということはできない。しかし、そもそも海外の不動産取引自体、訴外西村が原告に対して持ちかけてきた話であり、原告としては、本件モーテル購入に当たっては、被告会社しか日本で物件購入の相談ができる者はいない。また実際、前認定のとおり、被告会社も具体的物件の視察に原告を米国に連れて行くなど不動産仲介業者と同様の業務を行っている。さらに、前述したとおり、米国における不動産取引では日本と異なる取引慣習がある。

以上の状況においては、被告会社は、原告に対し、不動産仲介契約により生じる一切の責務を負っていると考えるのが素直な意思解釈である。すなわち、被告会社は、米国の不動産仲介業者に代わり、少なくとも日本においては原告に対し、日本の不動産仲介業者が仲介契約に基づいて買主に対して負っているのと同程度の一切の業務を被告会社も負っていると考えるべきである。したがって、原告と被告との間には、不動産媒介(仲介)契約に準じた本件準媒介契約が成立したものと解すべきである。

三  次に、請求原因4(本件売買契約)の成否について検討する。

まず、本件売主から訴外コスモプランニング名義で、平成元年三月一七日、本件モーテルを購入する旨の売買契約が締結されたことは当事者間に争いがない。

<証拠省略>によれば、代金総額は三四五万ドルであったこと、さらに、<証拠省略>によれば、右モゲージ部分につき、原告が本件売主に対し、四〇万ドルの個人保証をしたことが認められる。

原告は、訴外コスモプランニングが実体のない形式的な会社であって、本件モーテルの実質的な買主は原告であったと主張する。そこで判断するに、<証拠省略>によれば、本件売買代金の金融機関からの借り入れ及び訴外コスモプランニングに対する送金等が、すべて原告によってなされていると認められること、<証拠省略>によれば、被告会社関係者作成に係る本件売買契約に関する文書の宛名が「斎藤氏購入済みモーテル」、「斎藤様にご購入いただくに際して」と記されていること、<証拠省略>によれば、訴外コスモプランニングは、原告が米国内の不動産の買取のために設立した現地法人であって、会社としての人的物的組織のない、全く実体のない会社であることが認められる。

右事実によれば、本件売買契約の実質的な買主は、原告というべきであり、したがって、その所有者は訴外コスモプランニングではなく、原告であると認めるのが相当である。

四  請求原因5(本件モーテル購入に際しての原告と被告会社との合意と購入後の状況)について

1  請求原因5の(一)の事実は、当事者間に争いがない。

2  同(二)の事実は、<証拠省略>によって認められる。

3  同(三)の事実は、<証拠省略>によって認められる。

4  同(四)の事実については、これを認めるに足りる的確な証拠はない。

5  同(五)の事実中、本件モーテル経営が赤字続きであったことは当事者間に争いがなく、<証拠省略>によれば、原告は、本件モーテル経営による赤字を補填することができず、購入して一年数か月後に抵当権の実行を受け、本件モーテルの所有権を失ったことが認定できる。

6  同(六)(原告が本件モーテル購入により被った損害)について

(一)  同(六)の(1) につき、本件モーテルの売買代金は前認定のとおり、三四五万ドルであるところ、<証拠省略>によれば、原告は、内金二五万ドルを契約締結日に支払っていることが認められる。

(二)  同(2) につき、前述のとおり、原告は、本件モゲージ部分につき四〇万ドルの個人保証債務を負ったことが認められるが、右四〇万ドルの損害が現実に発生したと認めるに足りる証拠はなく、かえって、<証拠省略>によれば、保証債務履行請求調停申立事件の和解金として、平成四年八月一七日及び同四年一一月一七日に、合計金一〇〇〇万円を支払う旨の約束がなされたことが認められる。しかし、原告が右一〇〇〇万円の債務を履行した旨の主張がなく、結局、個人保証債務の履行として何らかの支出が現実になされたとの事実を認めることはできない。したがって、個人保証債務について、損害が発生した旨の原告の主張は失当として排斥を免れない。

(三)  同(3) につき、<証拠省略>によれば、原告は、本件契約締結費用として一万五〇〇〇ドルを支出したことが認められる。

(四)  同(4) につき、<証拠省略>によれば、前記のとおり被告会社が本件モーテルの管理を放棄したことから、経営難に陥った原告が本件運転資金として幾ばくかの金銭の支出を余儀なくされたことが認められるが、全証拠によっても支出した金額が明らかでない。

(五)  同(5) につき、原告の主張する本件モーテルの客室の瑕疵を証するに足りる証拠は全く存しない。したがって、原告のこの点に関する主張も失当として排斥を免れない。

(六)  同(6) につき、全証拠によっても、原告がいつ、どういう経緯でかかる和解金を支払うに至ったか明らかでない。したがって、この点に関する原告の主張も失当として排斥を免れない。

なお、本件売買契約時における為替レートが一ドル一三一・〇七円であったことは当事者間に争いがない。

(七)  以上から、原告が被った損害は、合計金二六万五〇〇〇ドルであることが認められる。

五  被告会社の債務不履行について

原告と被告会社との間に、本件準媒介契約が成立したことは、前記のとおりである。それでは、そこで述べた被告会社の原告に対する不動産仲介契約から生ずる一切の義務とは、どのようなものであろうか。

一般に国内の不動産仲介業者の注意義務は宅地建物取引業法上は、信義誠実義務、取引態様明示義務、重要事項説明義務、書面交付義務、不当に履行遅延しない義務、秘密を守る義務、重要事項告知義務その他の義務が課され、民法上は、媒介契約は準委任契約と解されている(最高裁判所昭和四四年六月二六日判決・判例時報五六一号六九頁参照)から、善管注意義務、報告義務、金銭等の引渡義務を負う(民法六五六条、六四四条)。このうち、本件準媒介契約で関係あるものは、重要事項説明義務、重要事項告知義務、善管注意義務、報告義務である。これらの義務は、原告が主張する前記請求原因6、(二)中の<1>ないし<3>の義務に該当する。したがって、被告会社は、原告に対し、原告が右主張するとおり、仲介契約に基づくこれらの義務を負うものといわなければならない。

そこで、原告主張の被告会社の債務不履行の有無について判断する。

1  請求原因6の(一)(被告の米国不動産に対する知識について)につき、<証拠省略>によれば、原告主張の事実が認められる。

2  同(二)(被告会社の説明義務違反)につき、本件準媒介契約に基づく前記被告会社の義務によれば、被告会社が同(二)の柱書きの注意義務を負うことは理の当然であろう。

そこで、原告の主張に沿って以下検討する。

<1>について、<証拠省略>によれば、原告は、本件モーテル引渡し後、六か月後に確認したというものであって、瑕疵がいつ生じたものかはっきりしない上、部屋と瑕疵の特定がなされていない。したがって、この点に関する原告の主張は失当として排斥されるべきである。また、被告加納本人尋問の結果によれば、原告が本件モーテルを購入する前の他の購入予定者も三四〇万ドルで購入予定していたものであり、原告主張の鑑定価格が市場と必ず合致していたとは認められない。しかも右尋問の結果によれば、前の購入予定者がモーテル経営者であったことが認められるから、被告加納の購入金額の説明、転売利益の説明に過失があったとは到底認められない。

<2>について、本件モーテルを購入するに際し、被告会社の履行代行者であり、本件準媒介契約の担当者である被告加納、訴外西村が視察に同行し、原告に対し、本件モーテルを案内しているが、その際、本件モーテルが売りに出ていることを本件モーテルの従業員に知られないよう、四、五室だけを見るにとどめ、その他の本件モーテルの状況については本件モーテルの従業員の話と訴外ペギープラウニングの話を一方的に信用することにした。その結果、被告加納及び訴外西村は、原告に部屋の稼働率が九〇パーセント以上であると誤信させてしまった。この点に被告会社履行代行者である被告加納及び訴外西村に過失が認められる。しかしながら、<証拠省略>によれば、前年度の部屋の稼働率は七〇パーセントと記載されているのであるから、原告がこの点について問いただすことは十分可能であったはずだし、また、<証拠省略>によれば、本件契約締結後検査期間が設けられており、右期間内に原告自ら検査すれば容易に部屋の稼働率を調べることができたにもかかわらず、原告は漫然放置していたから、原告にも重大な過失があるといわざるを得ない。

<3>について、本件モーテルの収益性については、<証拠省略>によれば、借入金や修理費用を支払っても年間四万ドルもの収益が見込めるとあるが、他方、現実には購入直後から赤字が出ており、収益があることは認められなかった。このような結果が生じた原因について検討するに、被告加納本人尋問によれば、周囲のモーテルの値下げであるとか、部屋の稼働率の低下が相まって生じたためであることが認められる。この点、部屋の稼働率についての説明義務違反は前述のとおりである。また、周辺のモーテルとの値下げ競争は、本件弁論の全趣旨によれば、被告加納及び訴外西村にも予想できたことが認められる。これに対し、被告加納及び訴外西村がこの点につき、原告に対して説明したことを認めさせるに足りる証拠はないので、結局、被告会社には過失が認められる。

しかるに、この点についても原告は、前掲証拠によれば本件物件の周辺にモーテルが林立している状況を十分把握していたことが推認されるから、賃料の値下げという事態も十分予想できたはずである。したがって、右の点について原告に重大な過失があるものというべきである。

また、訴外CUDIが、ホテル経営のノウハウも経験もなく専従の従業員さえいないペーパーカンパニーであった事実を認めるに足りる証拠はない。転売可能性については、<1>に記したとおり、被告会社に過失は認められない。

3  同(三)(被告会社の契約違反)につき<証拠省略>によれば、以下の事実が認められる。

すなわち、本件モーテルの管理に関しては、被告会社は、訴外西村を常駐させてその管理に当たらせるので問題ない旨述べていたにもかかわらず、原告が本件モーテル購入割賦代金の一か月分の支払を怠っただけでその後直ちに訴外西村を帰国させている。確かに購入割賦代金の一か月分の支払が遅れたのは事実であるが、訴外西村が現地に常駐することは、本件モーテル購入に当たって重要な要素となっていることを考えれば、被告会社が、訴外西村の帰国を命じたことは、明らかに本件モーテル購入に際しての被告会社の説明に反する。したがって、被告会社に説明に反した行動を取った点につき、債務不履行が認められる。

4  以上のとおり、被告会社の債務不履行が認められ、被告会社は、原告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として、前記四、6記載の損害を賠償する義務があるものというべきである。

六  請求原因8(被告加納及び被告寺島の不法行為責任)について

1  請求原因8(一)、(1) の事実については、<証拠省略>によれば、被告社は、本件モーテルと同様の米国の不動産を日本人投資家に紹介する業務を、三件扱ったことがあること、米国内で四都市にネットワークを持っていたことが認められる。これらの事実からすれば、米国での不動産取引の経験がゼロに等しい会社とはいえず、経験豊かで米国内にネットワークを有するという広告は、誇張があったとしても、内容虚偽とまでは認められない。

2  同(2) の事実について判断する。

<証拠省略>によれば、被告加納が、原告に対し、本件モーテルは安全確実な投資であり、被告会社の米国法人である訴外CUDIが経営管理するから、原告にとって手間がかからず安心である。本件モーテルは放漫経営で赤字だが、訴外CUDIの経営管理で短期間で黒字化され、転売すれば一、二年で大きな転売利益を得られる、本件モーテル周辺は立地がよく、地価が高く、地域性も良好である、将来的には転売益によって数百室のホテルを購入することもできる、訴外CUDIは、ホテル経営専門の会社であり、本件モーテルの黒字化は確実である、マネージメントは被告会社の方で責任を持つ、訴外西村を常駐させて本件モーテルの経営管理にあたらせる、本件モーテルの改修等は通常の営業収益でまかなえるから追加支出はない等と述べて、本件モーテルの購入を強く勧めた事実が認められる。本件モーテルの年間予想売上は一〇〇万ドルになるといったとの主張は、これを認めるに足りる証拠はない。むしろ<証拠省略>によれば、年間予想売上は九〇万ドルと説明されていたことが認められる。

3  同(3) の事実は、<証拠省略>により、これを認めることができる。

4  同(4) の事実について判断する。

<証拠省略>によれば、被告加納が、原告に対する物件案内の際、客や従業員が心配するからと述べ、一、二の客室を案内したのみであったこと、被告らが、本件モーテル購入後約一か月で本件モーテルの管理を放棄したことが認められる。しかし、前記のとおり、訴外CUDIがホテル経営のノウハウも経験もなく専従の従業員さえいないペーパーカンパニーであった事実を認めるに足りる証拠はない。本件モーテル引渡後に原告がこれを確認したところ、全一五〇室中、四五室が客室として使用不能だったため、原告は多額の修理費用の支払いを余儀なくされたとの主張についても、本件モーテル引渡六か月後に確認したものであり、いつ生じた瑕疵かはっきりしない上、部屋と瑕疵の特定ができていない。収益性について、被告らが、客室稼働率が七〇パーセントのところを九〇パーセントと欺いたことを認めるに足りる証拠もない。却って<証拠省略>によるとそのようなことがなかったことが認められる。本件モーテルの実際の鑑定評価額は二〇〇万ドル程度であったこと及び被告会社が売主側の提携業者から、手形によって、一〇万五〇〇〇ドルの仲介料の支払いを受けたことを認めるに足りる証拠はない。

5  同(5) の事実については、確かに、<証拠省略>によれば、原告は会社名義を使っての米国不動産売買の経験があったことが認められるが、原告は英語力及び海外生活の経歴もなく、米国の法律、地理、不動産についての価額ならびに取引について、漫然とした知識を持つのみであったこと、また本件売買契約締結にあたって、訴外スティード弁護士は、本件売買契約締結手続を担当したのみで、本件モーテルの投資についてのアドバイスはなかったこと、被告会社から訴外スティード弁護士の紹介を受けたのも、本件モーテル購入決定後のことであったことが認められる。

6  同(6) の事実については、<証拠省略>によって、平成元年三月一七日に原告が本件モーテルを購入し、被告寺島は同年四月には訴外西村をアトランタに常駐させないといい、五月の連休前には被告加納を解雇していたこと、被告寺島は、本件モーテル購入後二か月も経たないうちに、本件モーテルの管理を放棄することを原告に告げたこと、被告会社が訴外西村をアトランタに常駐させなかったこと、経営を黒字化することができなかったこと、本件モーテル購入後原告が追加資金をつぎこんだことが認められる。また、<証拠省略>によれば、本件モーテルが購入から一年数ヶ月後には抵当権の実行を受けたことが認められる。

7  以上の事実によると、原告と被告加納及び被告寺島ら間には何ら契約関係は認められないとはいえ、被告加納及び被告寺島は、原告に対し、本件モーテルを紹介し、かつ購入に導いたのみならず、本件モーテル購入後のその経営管理に責任をもってあたり、マネージメント会社を設立するなどして本件モーテルの経営管理に深く関わりを持った以上は、調査に基づいた正確な事実を伝えることで適切な物件紹介を行い、購入後の経営管理にあたっても原告に損害を被むらすことのないように最善の注意を尽くすべき取引通念上の義務を負うものというべきである。しかるに、被告加納は、前記認定のとおり、本件モーテルにつき、安全確実である、すぐに黒字化する、追加支出はないなどと、少なくとも過失による事実誤認に基づく物件紹介を行い、購入後約一か月でその管理経営を放棄し、被告寺島は被告加納の右行為を少なくとも過失により漫然放置し、現実に本件モーテルが思ったほどの利益を出さないとわかると、訴外西村をアトランタに常駐させる案を引っ込め、被告加納を解雇し、本件モーテルの管理を購入後わずか約一か月で放棄したことは、取引通念上要求される前記の義務に著しく違背した行為として違法性を帯び、原告に対する不法行為となるものといわなければならない。

七  請求原因9(被告会社の使用者責任)について

被告会社が民法七一五条の使用者責任を負うかどうかについては、同条は、被用者が、使用者の事業の執行につき第三者に加えた損害の賠償責任を負うことを認めたものであるが、「事業の執行につき」といえるためには、外形的に判断して、被用者の不法行為が使用者の事業の範囲内で行われ、かつ、事業上の業務の執行と関連することと認められることが必要であると解するのが相当である。

本件では、被告会社が、米国の売り物件を探し、米国の不動産業者と提携して売り物件を日本の顧客に紹介することを業として行っていることは当事者間に争いがない。前記六で述べた被告加納及び被告寺島の不法行為は、外形的に判断して、かかる事業の範囲内で行われ、また、事業上の業務の執行と関連することが認められるから、被告会社は、民法七一五条の使用者責任を負うものといわなければならない。

八  請求原因10(商法二六六条の三の責任)について

請求原因10については、本件全証拠によっても、被告寺島が被告加納の行為を黙認放置した点に重大な過失があるとまでは認定できない。したがって、原告の右主張は失当として排斥を免れない。

九  ところで、原告が本件モーテル購入により被った損害として、前記四、6、(七)記載のとおり、本件モーテルの売買代金二五万ドル、本件契約締結費用一万五〇〇〇ドルの合計二六万五〇〇〇ドルが認められるが、原告は、請求原因5、(七)記載のとおり、右損害金のうち本件モーテル売買代金内金二万ドル、契約締結費用内金一万ドルを請求しているから、合計金三万ドルの損害賠償請求が認められる。

そして、本件売買契約締結時である平成元年三月一七日の為替レートが終値で一三一・〇七円であることに当事者間で争いはないから、右ドルを円に換算すると、金三九三万二一〇〇円となることは計算上明らかである。

一〇  ところで、本件損害が発生したことについては、前記のとおり、原告にも過失があったことが認められるので、本件損害賠償額の算定に当たっては、原告の右過失を考慮し、原告の損害に二割の過失相殺をするのが相当である。

一一  以上の次第により、原告は、被告会社に対し、債務不履行または使用者責任に基づき、被告加納及び被告寺島に対し、不法行為に基づき、それぞれ損害賠償として、連帯の上本件請求中、三一四万五六八〇円及びこれに対する、被告会社及び被告寺島については本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成四年九月二五日、被告加納については本件訴状送達の日の翌日であることが本件記録上明らかな平成四年一〇月二三日から各支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるが、その余の請求は理由がない。

一二  よって、原告の請求は主文第一項掲記の限度でこれを認容し、その余を棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法第六一条、六四条本文、仮執行の宣言につき同法第二五九条第一項をそれぞれ適用して、主文の通り判決する。

(裁判官 永吉盛雄)

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